再審棄却〜名張毒ぶどう酒事件

冤罪をテーマにした映画「約束」にも描かれた「名張毒ぶどう酒事件」について、最高裁は再審を認めない決定を下しました。再審開始を信じ、期待していただけに非常に残念な結果です。
52年前に三重・名張市で、毒物入りのぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡したこの事件は、一審の津地裁で無罪、名古屋高裁最高裁で死刑、その後、高裁でいったん再審の開始決定がされましたが、検察の反対による差し戻し異議審で再審が取り消されるという経過をたどり、弁護側の特別抗告により今回の最高裁判断となりました。
もともと”自白”以外の物証に乏しい事件であり、その乏しい物証の中で最も重要といえる「混入された毒物」が、”自白”とは違う別の農薬であった疑いがある、と、基本的な証拠物をめぐって再審請求が出されていました。
再審請求とは、有罪無罪の結論を出す場ではなく、裁判をやり直すかどうかを決定する場であり、この事件のように重大な疑問がある死刑判決に対して、もう一度裁判をやり直すことすらできないのはなぜなのでしょうか。
「疑わしきは罰せず」の刑事裁判の基本理念は、まるで絵に描いたモチで、現実の裁判の世界では全く違う論理が働いているとしか言いようのない結果です。
今回のように、いったん再審開始決定が出ても検察が異議を唱えればひっくり返ってしまうという制度自体、結局は検察の言いなりに司法が動いているということではないでしょうか。
こんな状況で、もし仮に死刑が執行されたなら、本当に取り返しがつかないことになってしまいます。
自白偏重の弊害、つまり、裁判での証言よりも捜査段階で密室で強要された”自白”を重視する今の裁判のありかたを改め、取り調べの全面可視化や証拠の全面開示を進めなければ冤罪はなくならないでしょう。
87歳、事件に翻弄され続けてきた奥西勝さんの心境を思うと、いたたまれません。